【台北4日小山田昌生】日本の新幹線技術を海外で初めて採用した台湾高速鉄道(台湾新幹線)が開業して、5日で1年を迎える。昨年末には累計乗客数が
1500万人を突破し、台北‐高雄の2大都市を最短96分で結ぶ大動脈として定着。ほかの交通機関に変革を迫るとともに、地域開発の起爆剤としても注目が
集まっている。
■駅と市街地のアクセスに難 乗客数 目標届かず
高速鉄道は昨年1月5日、板橋(台北郊外)‐高雄・左営駅の区間、1日19往復で営業開始。同3月には台北駅からの全線運行を始め、本数も段階的に増え
た。11月から導入した自由席が好評で、現在は1日56.5往復、平均約5万人が利用している。今月中旬からさらに増発し、週末や春節(旧正月=2月上
旬)休みには最大63往復とする計画だ。
高速鉄道開通に伴い、台北‐高雄間の他の交通機関利用者は、航空機がほぼ半減、在来線鉄道(高速鉄道と経営が異なる)が4割減、高速バスが2割減となる
など打撃が深刻。各航空会社は収益源確保のため、日本、韓国など近隣国際線のチャーター便を増やすとともに、今年5月の台湾新政権発足後に予想される中国
との直行便拡大に期待をつなぐ。在来線も都市近郊の駅を増設し、通勤電車を増発するなど、近距離客向けに重点投資。一方、高速バスは値引き競争と燃料費高
騰のはざまで苦戦している。
好調な滑り出しに見える高速鉄道も、目標とする1日当たり乗客16万人には遠く及ばない。利用者の意識調査で不満が多かったのが、駅までのアクセスの悪 さだ。在来線併用の台北、板橋を除く駅は市街地から離れた所に造られ、周辺には商店もほとんどない。高速鉄道の運営会社は昨年11月から台中と高雄で、駅 と市内主要施設を結ぶ無料シャトルバスを試験的に運行するなど、利便性向上策を探っている。
一方、行政院(内閣)経済建設委員会は昨年11月、高速鉄道駅周辺地区の開発計画を発表。新竹にバイオテクノロジー研究機関、台中に複合商業施設を誘致
するなど、駅ごとのコンセプトを示した。各駅周辺では開発への期待が高まっており、北部では不動産価格の高騰が続いている。
高速鉄道がもたらす効果について、馮正民・交通大学教授は「現状は他の交通機関から客を奪っているにすぎない」と分析する一方、「主要都市が日帰り圏と
なったことで時間が有効活用でき、生産性は飛躍的に高まった」と語り、高速鉄道と連動した地域開発が台湾経済発展の追い風となる可能性も指摘している。
=2008/01/04付 西日本新聞朝刊=
日本の新幹線技術の初の輸出例となった台湾高速鉄道(台湾新幹線)が5日、営業運転の開始から1年を迎えた。在来線で4時間かかった台北−高雄間 を1時間半で結ぶ新幹線は、都市間移動の高速化と沿線開発の活性化で期待された。しかし、高額な運賃設定や駅までのアクセスの不便さなどが障害となり、利 用者は約2割止まりと低調だ。初の海外新幹線は一般住民の足として定着していない。【台北・庄司哲也】
中部の新幹線・嘉義駅。午後1時、広大な空き地が広がる駅前から、近隣の台南県新営市行きの路線バスが出発した。乗客はひとりもいない。運転手の
蘇龍仁さん(52)は「乗客がいないのはいつものこと。たまの乗客は新幹線を見物に行く人ばかり。新幹線を使用する地元住民はほとんどいない」と話した。
台北−嘉義間を1時間余で結ぶ新幹線の運賃は1080台湾ドル(約3600円)。高速バスなら2時間ほど余分にかかるが、料金は3分の1以下の約350台湾ドルで済む。嘉義駅と周辺地を往来する路線バスで閑古鳥が鳴いている理由のひとつはここにある。
台湾交通部(交通省)が昨年9月に実施したアンケート調査によると、新幹線に乗車したことがあると答えた人は22%。運賃について48.2%が
「不合理」と答え、「合理的」の44.7%と二極化した。「次に乗りたいと思わない」と答えた人のうち、最大の44.2%は「駅までの移動を含む全体の費
用が高い」との理由を挙げた。
新幹線駅の多くが嘉義駅と同様に未開発の郊外に建設され、駅との往来は不便だ。タクシーの利用には、新幹線料金に加えて数百台湾ドルが必要になる。こうした事情も、庶民の足を新幹線から遠ざけている。
乗車率の伸び悩みに頭を抱える新幹線の運営会社「台湾高鉄」は昨年8月、全席指定だった車両の一部に自由席を導入。指定席より運賃を2割安く設定するなどして、乗客の呼び込みを図っている。
新幹線は台湾社会の所得格差を象徴する乗り物にもなっている。
乗車経験者は高所得・高学歴者層になるほど増加する。月収2万〜4万台湾ドル(14万円)の経験者の割合が13.3%なのに対し、同20万台湾ド
ル(70万円)以上は49.8%。また、中学卒業者の12.1%に対し、大学卒業者は30.6%、修士号以上の取得者は44.2%だった。
台湾のビジネス誌「天下」が今月発表した世論調査によると、85%の人は「貧富の差が以前よりも増した」と答えている。3月22日に投開票される台湾総統選では「経済の再生」「所得格差の是正」が争点の一つになっている。
64年に開業した日本の東海道新幹線も当初、乗客数が伸び悩んだ。だが、高度経済成長による所得増加とともに新幹線の利用も増え、沿線開発が進ん
だ。一方、台湾では80年代から90年代初めの経済成長後に新幹線が建設された。利用率の向上には沿線や駅周辺地の開発が不可欠だが、10〜20年の長い
時間が必要となる。
台湾行政院(内閣)の経済建設委員会は、新幹線駅周辺に学術都市やレクリエーション都市を建設する計画を発表した。嘉義駅周辺には新幹線利用者の増加を見込み、台北にある故宮博物院の分院を建設する計画もある。
だが、こうした開発計画が順調に進むとは限らない。交通大学交通運輸研究所の馮正明教授は「民間投資がなければ駅の周辺開発は進まない。嘉義駅や
隣の台南駅がある中南部では、中国大陸などへの産業移転によって不動産価値が下落しており、投資の呼び込みには難しい環境だ」と指摘している。
【台湾高速鉄道(台湾新幹線)】 北部の最大都市・台北と南部の拠点都市・高雄の間(345キロ)を最高時速300キロで走行する。具体的な建設
計画は90年代初めに持ち上がり、受注を巡り日本の企業連合が独仏の企業連合に競り勝った。日本でも台湾新幹線を取り上げたゲームソフトが制作されたり、
乗車ツアーが組まれるなど異例の注目を集めている。
日本の新幹線技術の初の輸出例となった台湾高速鉄道(台湾新幹線)が5日、営業運転の開始から1年を迎える。在来線で4時間かかった台北−高雄間
を1時間半で結ぶ新幹線は、都市間移動の高速化と沿線開発の活性化で期待された。しかし、高額な運賃設定や駅までのアクセスの不便さなどが障害となり、利
用者は住民の約2割止まりと低調。初の海外新幹線は一般住民の足として定着していない。【台北・庄司哲也】
中部の新幹線・嘉義駅。午後1時、広大な空き地が広がる駅前から、近隣の台南県新営市行きの路線バスが出発した。乗客はひとりもいない。運転手の
蘇龍仁さん(52)は「乗客がいないのはいつものこと。たまの乗客は新幹線を見物に行く人ばかり。新幹線を使用する地元住民はほとんどいない」と話した。
台北−嘉義間を1時間余で結ぶ新幹線の運賃は1080台湾ドル(約3600円)。高速バスなら2時間ほど余分にかかるが、料金は3分の1以下の約350台湾ドルで済む。
台湾交通部(交通省)が昨年9月に実施したアンケートによると、新幹線に乗車したことがある人は22%。運賃について48・2%が「不合理」と答
え、「合理的」の44・7%と二極化した。「次に乗りたいと思わない」と答えた人の44・2%は「駅までの移動を含む全体の費用が高い」との理由を挙げ
た。
新幹線の運営会社「台湾高速鉄道」は昨年11月、全席指定だった車両の一部に自由席を導入。指定席より運賃を2割安く設定するなどして、乗客の呼び込みを図っている。
新幹線は台湾社会の所得格差を象徴する乗り物にもなっている。
乗車経験者は高所得・高学歴者層になるほど増加。月収2万〜4万台湾ドル(14万円)の経験者の割合が13・3%なのに対し、同20万台湾ドル
(70万円)以上は49・8%。また、中学卒業者の12・1%に対し、大学卒業者は30・6%、修士号以上の取得者は44・2%だった。
台湾のビジネス誌が今月発表した世論調査によると、85%の人は「貧富の差が増した」と答えている。3月の総統選では「所得格差の是正」が争点の一つになっている。
日本製の新幹線車両を海外で初採用し、台湾の台北―高雄間を南北に結んだ「台湾新幹線」が5日、開業から1年を迎えた。運営会社の台湾高速鉄路によると、2007年末までに台湾の人口の7割近くに相当する延べ1555万人が乗車し、庶民の足としてすっかり定着した。
人身事故などの目立った問題はなく、昨年末までに運行された2万4400本の列車の99.46%が時刻表通りに発着した。5日は記念式典
などはなかったが、中華圏の帰省シーズンである2月上旬の春節(旧正月)休みの切符が一斉に発売され、新幹線が台湾社会の一部にとけ込んだことを印象づけ
た。
(台北=山田周平)
1日の運行本数は開業当初は19往復だったが、現在は55往復まで増加し、年内に88往復へ増便する予定だ。利用者数も当初の1日平均4〜5万人台から6万人台に増加。月別の利用者数は昨年12月に初めて200万人の大台を突破した。
運行システムに欧州式が混在したことで、開業前は安全面での不安が大きかったが、この1年、人身事故など安全面での大きなトラブルはなく、日本企
業関係者は「定時発着など運行状況は予想以上」と評価する。消費者団体が12月に実施したアンケート調査によると、52・6%の利用者が「満足」と回答、
不満は7・6%だった。遅れていた台湾人運転士の養成も進み、当初はフランス人など外国人が中心だったが、今年中には全員が台湾人になる見通しだ。
ただ、採算ラインの乗客数は1日11〜12万人で、現行の乗客数では当面、厳しい経営状況が続きそうだ。「駅が市中心部から遠い」「運賃が高い」などの一部利用者の不満をどう解消していくかが課題となる。